「皆静かにっ!各自グラス持ったか?」

 ウソップの呼びかけに「おう、全員持ったぞ長っパナ。」と答えるとコホンッ、と咳払いを一つしながら

 「え〜っ、それでは・・・・・・ロロノア・ゾロ君の誕生日を祝って!乾杯っ!!」

 そう言って手にしたグラスを上に掲げ、皆もそのウソップの動作を真似るように後に続く。

 「乾杯っ!ゾロ、おめでとう!」

 「プレゼントは無いわよ、その代わり借金の利子を減らしてあげるわ。」

 「肉〜!!」

 「おめでとう、剣士さん。」

 口々に祝いの言葉を述べる仲間に囲まれ、まるで怒っているかのような複雑な表情を浮かべる剣士。

 こういった場に慣れていないのだろう、明らかに戸惑っているのが気配でわかる。

 その様子をそっと盗み見るようにしながら、グラスを置きシンクに向き直ると小さく笑みを浮かべ追加の料理を皿に盛っていった。











 今日はゾロの誕生日。

 元々毎日がパーティーのようなこの船の食事風景だが、クルーの誕生日にはそれが輪をかけて豪華になる。

 というのも船長であるルフィが誕生日にはここぞとばかりに「肉!」と言っても怒られないと思っているからに他ならない。

 まぁ普段も肉肉煩いが、誕生パーティーというお目出度い時には俺もつい甘くなってしまう。

 なので今回も船長の希望通り普段の倍近い肉を用意してやり、料理にも腕を揮った。

 ――――というのは立て前で、本当の目的は他にある。

 誰にも話す事は無い、俺の心の中だけで叶えられる願い。

 俺は・・・・・・・・ゾロが、好きだった。

 仲間としてじゃなく、本来なら異性に持つような感情の「好意」をゾロに対して抱いている。

 それに気付いたのは、この船にコックとして乗船してすぐの事。

 正直、最悪だと思った。

 同性に、しかも初対面から喧嘩越しな態度を取ってしまった相手に惚れちまうなんて。

 案の定、顔を合わせれば喧嘩ばかりでまともに話も出来ない。
 
 その一因は自分が必要以上にゾロに突っ掛かってしまっている事にあるのもわかっているが、どうする事も出来なかった。

 だって、喧嘩する要因を排除してしまえば・・・・・・・俺とゾロの間には、何一つ関わりが無くなってしまうから。

 疎まれても、嫌われても構わない。

 元々自分は好かれていないって事は十分過ぎる程承知しているから。

 だから・・・・・・・・・・ほんの少しの接点だけに縋り続けるという選択肢しか、俺には残されていない事もわかっている。

 でも、今日だけは違った。

 年に一度の誕生日、その日にゾロが口にするもの全てにありったけの自分の想いを混ぜ込む。

 これは料理人である自分にのみ与えられた特権のようなもの。

 他の誰にも気付かれる事は無い、だけど自分にだけはわかるこの行為を施す事を許して欲しい。

 今日だけ、ゾロの誕生日だけだから。

 誰に対するでもない言い訳じみた言葉を呟きながら、焼き上がった肉にソースをかける。

 「・・・・・・・・ほら、ちゃんと残さず食えよ?ルフィが全部食っちまったから仕方なく追加してやったんだからな。」

 あくまでも平静を装いながらゾロの顔を見ずにそう告げる。

 だが内心では肉を食っちまったルフィに感謝していた。

 「他の奴が食ったから仕方なく出してやった」との名目であれば、この皿の料理はゾロにだけ提供する事が出来る。

 だから今日作った料理の中でもこれは一番丁寧に、心を込めて作り上げた。

 そのままテーブルの上に出来上がったばかりの料理を置くと、途端に横から手が伸ばされる。

 「美味そ〜!サンジ、いっただっきま〜・・・・・」

 「・・・・・・・・・・こりゃ俺んだ、勝手に食うんじゃねえよ、ルフィ。」

 そう小さく呟くと皿を自分の前へと寄せ黙々と料理を食べ始めた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 呆気に取られながらも慌ててゾロに背を向ける。

 どう頑張っても喜びの余り顔が綻んでしまうのを止められそうもなかったから。

 『こりゃ俺んだ。』

 そのたった一言だけでもう十分だし、これ以上望んだら罰が当たる。

 後ろでもっと肉をくれと騒いでいるルフィを適当にあしらいながら、思いがけず与えられた幸せな気持ちに浸り続けた。
















 大騒ぎの宴も食べるものが綺麗さっぱり無くなったのと共に終わりを向かえた。

 料理への賛辞を口にするクルーに笑顔で答えながら片付けを始める。

 大量の洗い物を目にし、チョッパーが手伝おうかと申し出てくれたがそこは丁重に断った。

 片付けを終えて今日一日の俺の仕事が終わるのだから、どうせなら最後まで一人でやりたい。

 程良く酔っているクルーが一人、また一人とキッチンを後にするのを気配で感じながら、黙々と洗い物を続けていく。

 そして山のように積まれていた食器を全て洗い終え、軽く伸びをしながら振り返ったその時。

 「!?うわっ!」

 初めてゾロがまだこのキッチンに残っていた事に気付いた。

 しかも床に座り、壁に凭れ掛るようにしながら目を閉じている。

 規則正しく上下する肩を見ると、どうやら眠ってしまっているらしかった。

 予期していなかった状況に素で驚いてしまい、煩く鳴り響く鼓動がやけに耳に付く。

 それでもゆっくり深呼吸をしながら、動揺を表に出さないよう声のトーンを落とし

 「・・・・・・おい、クソ剣豪、起きろ。・・・・・んな所で寝てんじゃねえよ・・・・・」

 そう呼び掛けた。

 だがゾロは起きる気配を見せるどころか微動だにしない。

 「・・・・・・・・・・勘弁してくれ・・・・・・・・・」

 小さく呟きながら、ゾロに向き直ると

 「・・・・・・・・・んっ、ゴホンッ。」

 わざとらしく咳払いをし、カツカツと意識的に靴音を鳴らして近づいていく。

 早く目を覚ましてここから出て行って欲しい。

 じゃないと・・・・・・・・・・俺は、とんでもない事をしでかしちまうそうな気がするから。

 「・・・・・・・・起きろって・・・・・・・・邪魔なんだよ。」

 その言葉とは裏腹に囁くような声しか出てこない。

 いつものように蹴り起こせば済む話なのに。

 普段見慣れているはずのゾロの寝顔なのに。

 それから・・・・・・・・目が離せない。

 「ゴホンッ・・・・・・・・なぁ、起きろって。」

 口から出る言葉とは真逆な思考が頭の中を満たしていく。

 このまま起きないで欲しい。

 後少しの時間だけでいいから・・・・・・・・・目を、閉じていて。

 「目、開けろよ・・・・・・・ゾロ。」

 「・・・・・・・・・・」

 答えが返る事は無く、ゾロの静かな息遣いだけが僅かに聞こえる。

 これだけ呼び掛けても起きないという事は―――――今なら、何をしても気付かれる事は無いのかもしれない。

 そう考えると同時に、突如心が暴走し出す。

 普段コイツを起こす時だって、加減しているとはいえ蹴りを繰り出さないといけないんだ。

 だったら・・・・・・・多少俺が触れた所で目を覚ましはしないだろう。

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 一瞬だけだから、ほんの僅かに触れるだけ。

 自分自身に何度も言い聞かせるようにしながらゾロの真横へと身体を移動させる。

 「・・・・・・・・・・・・」

 ゴクッと喉が鳴り、掌には汗が滲む。

 緊張の余り震えそうになる手を握り締め、膝を付くと上半身を乗り出す。

 こんなに近い距離でゾロの顔を見る事はもう二度と無いだろう。

 そんな事を思いながらゆっくりと顔を寄せ――――――

 唇を僅かに掠めるように、一瞬だけ重ねた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 すぐに身体を離し、ゾロの顔を見つめ何の変化も無い事に安堵の溜息をつくとそのまま立ち上がろうとした。

 ―――――のだが。

 「・・・・・・・・・え・・・・・・・・・?」

 手首に触れる、温かい感触。

 恐る恐るその箇所へ視線を向けると――――

 眉間に皺を寄せ、俺の手首をしっかりと掴んでいるゾロの姿が、あった。
















 「・・・・・・・・・・・」

 唇が震え声も出せない。

 無言のままでいる俺から視線を逸らす事無く、ゾロは不機嫌さを隠そうともせずに低い声で

 「・・・・・・・・・今、何した。」

 そう問い掛けてくる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 終わった、と思った。

 「何をしている」ではなく、「何をした」と聞いているという事はすなわち。
 
 俺がしてしまった行為を知った上での質問と考えざるをえない。

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・答えろ、クソコック。てめぇ今・・・・・・・俺に、何をした。」

 怒ったような口調で再度そう聞いてくるゾロに向き直ると、薄笑いを浮かべながら口を開く。






 「何したか、って・・・・・・・?・・・・・・・キスしたんだよ。」






 考えてみえば、別に本当の事を言う必要など無い。

 どうせ俺はゾロに嫌われているんだ、なら普段通りに憎まれ口を叩けばいいだけの事。

 確かにゾロが起きていたのは計算外だったが、それも然程大した問題じゃないだろう。

 咄嗟にそう考えてしまえるほど俺の心は落ち着いていて、自分でも驚いてしまう。

 今日ゾロの為に作った料理に思いの丈を込められたのだから、悔いは無いはず。

 だから例え明日から一切ゾロと接触を持てなくなったとしてもそれは仕方の無い事。

 無理してでもそう思い込まなければ、明かしてはいけない想いをぶち撒けてしまいそうだったから。

 それだけは、避けなければならない。

 そんな事になるくらいなら・・・・・・・・こんな嘘をつく事くらい、何でも無いと思えた。

 「・・・・・・・・何だと・・・・・・・・・?何でんな事しやがった・・・・・!」

 俺の言葉に明らかに怒りを覚えたようで、更に追求される。

 まぁ当然だよな、嫌ってる奴にいきなりキスされりゃ誰でも怒りたくなるだろう。

 「何で・・・・・・・?意味なんかねぇよ、ちょっとした嫌がらせ?」

 軽い口調に聞こえるようそう言い放つと、面倒臭そうな顔を作り

 「てめぇがいくら起こしても起きねぇから悪戯してやったまでよ。誕生日プレゼントとでも思っとけ・・・・・・クソ野郎。」

 吐き捨てるように言いながらゾロから視線を外した。

 これでいいんだ、元々コイツの中で俺の存在は最低ラインに位置されているはずだから。

 悪ふざけで男にキス出来る、最低最悪な野郎だと思われた所でゾロの中では以前と何ら評価は変わらないだろう。

 あからさまに避けられるのはちょっと痛いが、今となってはもう遅い。

 「クソ剣士様も起きた事だし、俺はもう寝るぜ。・・・・・・・・・離せよ。」

 掴まれたままだった手首を振り解こうとするが

 「?なっ!?」

 逆に強い力で下に引っ張られ、バランスを崩しゾロに倒れ込むような格好になってしまう。

 「なっ・・・・・・・・何やってんだてめぇ!離せ・・・・・」

 「・・・・・・・・・黙れ。」

 そう言われると同時にいきなり唇を塞がれる。

 「!?んっ・・・・・・・・・!!」

 必死に両手を突っ張りゾロから離れようとするが、後頭部を鷲掴みされ強い力で抑え込まれてしまう。

 「ん、んんっ!んっ・・・・・・・」

 固く閉ざしていた唇を強引に抉じ開けられ、滑った舌が口腔へと入り込んでくる。

 奥で縮こまっている舌を絡め取られ、強く吸い上げられると意図せず鼻に掛かったような声が漏れた。

 「んっ・・・・・・・ふっ・・・・・」

 ちゅっ、くちゅっと濡れた音が立ち頭の芯がボーっとなってくる。

 何故こんな状況になってしまっているのか、訳がわからない。

 やっと唇が解放された頃には息が上がり身体に上手く力が入らなくなってしまっていた。

 「・・・・・はっ・・・・・・な、んの・・・・・つもりだっ・・・・・・・・」

 辛うじてそう口を開くと

 「・・・・・・何のつもり・・・・?てめぇが言ったんだろうが、誕生日プレゼントだってよ。」

 不貞腐れたような顔で返された。

 「・・・・・・・・え・・・・・?」

 思わず聞き返すと、一瞬口篭った後静かにゾロが話し始める。

 「・・・・・・今日は俺の誕生日だ。年に一度のこの日になら・・・・・・許されるかもしんねぇって思ってた。」

 「・・・・・・?・・・・・・」

 「だがなんて切り出しゃいいのかわかんねぇから・・・・・・・寝たフリして皆がキッチンから出て行くのを待ってた。

 そして誰もいなくなったのを確認し目を開けようかと思ったが・・・・・タイミングが掴めねぇまま、てめぇがこっち見て・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「俺は叩き起こされると思ってた。だがいつまで経っても普段やってるように蹴られねぇし・・・・・・・俺を起こそうと呼ぶ声も

 どこか頼りなくて・・・・・・・・本気で起こそうとしてんのかって思ってたら・・・・・・・てめぇの、気配が・・・・・すぐ隣でした。

 それだけでも驚いたのに・・・・・・・・唇に触れた僅かな温度に、心臓止まっちまうかと思った。しかもてめぇは何も言わず

 出ていこうとしやがるし・・・・・・・目を開けて問い詰めりゃ嫌がらせだの何だの・・・・・・・・・ふざけんな。

 てめぇにとっちゃ悪ふざけだったのかもしんねぇがな、俺にとっちゃ願ってもねぇチャンスなんだよ。」

 「・・・・・・・・え・・・・・・・・・?」

 ゾロの言葉の意味を理解する間も無く、再び唇が重ねられすぐ離される。

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「プレゼントだっててめぇ言ったよなぁ?俺はそれを本気の意味で取ったぞ。・・・・・・・・今更無かった事になんかしてやらねぇ、

 からかう相手を間違えたな。・・・・・・・・俺はてめぇに惚れてんだ・・・・・・・・もう離さねぇから覚悟しとけ。」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 信じられない。

 こんな事・・・・・・・・あるはず無いと思うのに。

 何度も繰り返し与えられる熱く蕩けるような口付けに、思考が溶けていく。

 「・・・・・ロ・・・・・・・」

 唇が僅かに離れた合間、小さく呟く。

 「・・・・・・・あ?」

 「・・・・・ゾロ・・・・・・・」

 「・・・・・・・・んだよ・・・・・・・?」

 「・・・・・・・・・誕生日、おめでとう・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・??」

 そう告げた俺の顔を驚いたように見つめ、そのすぐ後。

 今まで見た事の無い程幸せそうな最高の笑顔を俺に向けてくれる。

 「・・・・・・・・・・」

 それに負けないよう、自分が出来る精一杯の笑顔を浮かべ――――

 この胸に溢れて止まらない想いを伝えるかのように、自分からゾロの唇をゆっくりと塞ぐと逞しい背中へ腕を回し、ギュッとしがみ付いた。










「moonright blue」の藍月ひろさんからいただいてまいりましたv
甘く切なく、幸せな誕生日。
想いが通じ合う前のサンジの、緊張感やどきどきが伝わって、
こっちまで手に汗握ってしまいます。
大丈夫よ、ゾロも一緒よ〜と思いつつ(笑)
ひろさん、素敵なSSをDLFにしてくださって、ありがとうございました!



grance off